栃木県医師会 太田 照男 会長

医療を守る各種の活動

県民にとって医師はいざという時の心強い味方だ。その医師の集まりが栃木県医師会。
栃木県民の健康を守るため県内の医療の問題点を検証し、行政に提案するなど精力的に活動している。
太田照男会長に活動の内容や今後目指そうとしているところを語っていただいた。

太田照男会長
幅広く健康を守る活動
■栃木県医師会の概要をご紹介いただけますか。

 会員数は2100人余りで、そのうち約4割が勤務医です。活動の目的として『栃木県医師会の諸事業推進にあたっては、会員、行政、関係団体、県民との「対話」「協調」「協働」のもとに連携を図り、県民の健康の維持、増進を主眼として、郡市・大学医師会、関係団体と緊密に相協力し、目的達成に努める』と掲げています。この趣旨に沿って、毎年の事業計画に基づき、県内の郡市医師会、大学医師会などの会員はもちろん、行政や薬剤師会、歯科医師会、看護協会、介護・福祉団体などと協力して県民の健康の維持、増進に努めています。
 具体的には、県医師会のほか、各郡市医師会でも生活習慣病に関する県民フォーラムなどを開催して、健康に対する啓発を行っています。平成23年の12月には終末期医療をテーマに開催しました。作家の五木寛之さんに特別講演をお願いし、たくさんの人に集まっていただきました。さらに、学校保健、地域での予防接種、乳幼児の検診、会社に勤めている人に対しては産業医活動など、幅広く取り組んでいます。

栃木県民の平均寿命(平成21年)

男 78.01歳(全国79.59歳) 40位
女 85.03歳(全国86.44歳) 46位

栃木県民の3大死因による死亡率 全国45位

・脳血管疾患年齢調整死亡率(人口10万対)
男 45位
女 47位
・心疾患年齢調整死亡率(人口10万対)
男 42位
女 44位
・悪性新生物死亡率
9位

栃木県民の国民健康保険の被保険者1人当たりの医療費(平成20年度)
全国44位
250,116円

後期高齢者医療制度の被保険者一人当たりの医療費(平成20年度)
全国41位
684,380円

幸福度下げる「医療健康」
■医師会の立場から、現在の栃木県民の医療、健康状況をどのように分析しておられますか。また、どのような改善が必要と思われますか。

 最近の県民の幸福度調査によれば、幸福度は全国26位でした。しかし、「医療健康」の分野をみると45位で、これが足を引っ張っているという結果です。特に脳卒中、急性心筋梗塞の死亡率は、常に
ワースト10に入っていて、平均寿命も42〜43位に低迷しています。塩分の摂取量も非常に多い。しかし、栃木県民が医療費に使う順位はいつも42〜43位なのです。健康度が悪いにもかかわらず、それほど医療機関にかかっていない。もう少し医療機関に行って自分の健康管理をしてもらったほうがいいのではないかという気がします。ではどうすればいいかといえば、外食産業などでカロリーや塩分濃度の表示をもっと積極的にやってもらえないかと思います。そうして県民の意識改革を図る。栄養士会や行政の協力も必要になります。

■日常的な機運の盛り上げということですね。

 そうです。健康に対する意識改革ですね。塩分の濃度や摂取総カロリー、運動量が少ないことなどへの意識の改善です。栃木県は65歳以上の6割から7割が健康診断で高血圧と言われています。にもかかわらず医療機関にかかっていない。県が行った調査にも表れています。

■病気になる前の意識改革ですか。

 なる前の予防の話もそうですが、なってからはカロリーや塩分の摂取など食事療法をする必要があるし、運動もする必要があります。栃木県は車の保有台数が多くて、あまり歩かない傾向があります。なるべく歩くようにしないといけません。

統一パスで医療情報共有
■医師会で取り組んでおられる「医療連携クリティカルパス」について、具体的な内容や目指すところを教えてください。

 病院、回復リハビリテーション施設、療養型病床、老人保健施設、特別養護老人ホーム、在宅医療など、いろいろな機関が連携し、患者さんが急性期医療病院を受診した場合、地域に戻っていくためにどうするか、データを統一したシステムで共有していくために作りました。それが、がん、脳卒中、糖尿病、急性心筋梗塞に作られています。がんは県立がんセンターが作っていますのでそちらの方式でやりますが、県医師会としては脳卒中、糖尿病、急性心筋梗塞のクリティカルパスを取り扱います。
 このパスによって情報を共有します。病院から在宅になった後、変化があった際には、また病院に行かなくてはなりませんが、データを一つにまとめておいて分かるようにしておくのです。ここには薬剤師もかかわるし、在宅医療の中で訪問看護ステーションなど、病院、診療所だけでなく関係団体との連携が不可欠です。開業医や診療所の人たちに説明して普及させることや、県民の理解も深めなくてはならないので、平成24年度の本格運用を目指しています。

栃木県の医師数(平成20年12月31現在) 4,246人

・病院 2,642人
・診療所 1,391人
・人口10万人当りの医療施設従事医師数 211.1人
全国30位(全国224.5人)
・病院勤務医数 2,836人
・必要(不足)医師数 486人
(不足科 内科、整形外科、産婦人科、小児科)

栃木県の医療機関数(平成23年4月)

・病院数109病院(自治体病院6 全国最下位)
・診療所1,462機関
 内科514 整形外科111 外科63
 耳鼻科63  眼科60  小児科57
(※群馬県132病院(自治体病院17))

連携が不可欠な在宅医療
■ほかに医師会として取り組んでおられる事業をご紹介ください。

 在宅医療を推進するために、県に在宅医療推進協議会があるのですが、県医師会でも在宅医療推進委員会をつくりました。県内の12医師会から委員を出してもらって、在宅医療の推進を図ろうという組織です。在宅医療推進診療所など在宅医療を推進する医療機関と訪問看護ステーションとの協力が必要です。どのように円滑に進めていくかを検討しています。

■今後取り組みたいとお考えの事業はありますか。

 在宅医療の推進にあたって、県に対して在宅医療推進室をつくってくれるよう要望しました。在宅医療は、医事厚生課、高齢対策課などいろいろな課にまたがります。また、障害のある子どものような場合は、小児の在宅医療もありますので、こども政策課も入ってきます。課を横断した組織を使わないと政策が進められません。
 それから高齢になって認知症が増えているので、認知症医療連携ネットワークをつくることを要請しています。医療機関だけでなく、訪問看護ステーションや地域包括支援センター、民生委員などを全部含めたネットワークづくりです。早いうちに認知症を発見して診断し、薬物療法を行う。今は認知症の新薬がたくさんできていますから、進行を防いだり改善することができます。専門医から認知症サポート医、さらに普通の診療所が連携した早期診断・早期治療システムと同時に、在宅の高齢者世帯、独居老人世帯が多くなっていますので、見回りをしたり在宅支援をするシステムをつくる必要があります。

太田照男会長
地域社会の支えが重要
■いろいろな分野が協力し合うということですね。お医者さんにかかる負担も大きくなってくるのではないですか。

 認知症は内科、精神科だけでなく、さまざまな科にまたがるのです。まず、いろいろな科目の先生が、自分の患者さんをいかに早期発見してあげて、早期に治療にもっていくか。そして、健康な時からいろいろ活動をしてもらうことなど、認知症にならないための工夫も重要です。これは地域包括支援センターの仕事になりますが、独居老人や高齢者世帯など引きこもりがちな人たちを集めて対話をし、認知症を予防する。また、なったとしても改善する。孤独死を防ぐ意味でも、地
域包括支援センターの役割はますます重要になります。もちろん医療機関との連携、民生委員との連携など全部必要になってきます。

周囲の力で早期発見
■お医者さんも連携しながら治療をすることが重要ということですね。

 医療機関の事務職に対しても啓発を進める必要があります。例えば医療機関に来て支払いをする時、小銭を持っているのに、いつも1万円しか出さない人がいたとします。計算ができないわけです。こうしたことも早期発見につながる。近所の人も何回も同じことをするなどちょっとおかしいのに気づくとか。認知症に対する啓発活動は重要なのです。
 これから高齢者はどんどん増えてきますので、やらなくてはならない課題はたくさんあります。特に認知症では、幻覚、妄想、暴力を振るうなどの認知症周辺症状で家族は非常に困ることになりますので、医療の中でやらなくてはなりません。物忘れでお金が無くなって嫁さんが盗ったとか、うちの嫁さんはご飯を食べさせてくれないなどと近所で言いふらしたりということになったら医療機関に行く、ネットワークで近所の人たちも早期発見に努める、そういう啓発をしていかないといけません。おかしいなと思ったら医療機関に行ってくださいというように。高齢者世帯で夫婦そろって認知症だとすぐには分かりません。その意味で認知症医療の連携ネットワークは非常に大切になります。
 個人情報の面で難しい部分のあるのですが、少し変だなと思ったら地域包括支援センターに連絡して、そこから医療機関を受診する。直接医療機関に行っても調べてくれます。栃木県内には獨協医科大学病院の物忘れ外来など、専門病院もあります。

栃木県内の診療所の増減(平成12年~平成22年)

増加 377診療所
減少 222診療所
合計 155診療所
(内科40、整形外科28、小児科17、眼科15、皮膚科13)

栃木県内の救急告示医療機関

病院 57
診療所 16

栃木県の在宅医療

在宅療養支援診療所 136力所
訪問看護ステーション 54カ所(12市町が設置されていない)
(県のアンケート調査 自宅で療養を希望する人 約67%。しかし自宅は介護力不足、家族に迷惑がかかるので無理70%)

公的医療保険制度を守る
■緊急の課題になっていることはありますか。

 TPPや受診時定額負担、混合診療、株式会社立の病院など、医療を取り巻くさまざまな問題があります。中でも県医師会は公的医療保険制度を崩壊させない取り組みを行っています。
 混合診療は、厚生労働省から医療保険として認められた診療行為のほかに、まだ保険適応として認められていない高度先進医療を将来、適応として認めることを前提として医療保険と混合して診療を受けてもよい制度です。
 混合診療は、先端医療が入ってくるし、新しい薬も入ってくるのだから認めたらいいという議論があります。しかし、混合診療で入ってくる新しい先端技術には、いい面もありますが、副作用などの面で疑問もあるのです。例えば副作用は人種間でも違います。白人にはあまり副作用が出なくても、日本人には副作用がでる場合もあります。
 また、医療保険が認めていない保険適応外の部分を全面解禁すると、公的医療保険適応にしなくても診療が行えるようになり、保険外の部分は自費で払うことになります。お金持ちは出せるからいいでしょうが、年金生活者や低所得者は出せなくなります。さらに、自費分をカバーするために民間保険に加入しなければならなくなり、アメリカが要求している民間保険参入が可能になります。
 その結果、公的保険の範囲が狭くなって、国民皆保険制度の崩壊につながっていきます。TPPに参入すると株式会社病院も可能になり、保険外診療を多く扱う病院が増えることが予想され、この面でも高所得者層しか高度先進医療を受けられなくなる可能性があります。誰もが受診できる国民皆保険制度を守っていかなければなりません。

塩原温泉病院
女性医師が働きやすく
■勤務医対策についてお聞かせください。

 県医師会の中に勤務医部会を設けています。その中に勤務医の労働環境を良くするための労働環境調査委員会などがあります。特に重要なのは女性医師対策です。現在、医学部卒業生の3割が女性です。これからも増えてきます。女性は出産、育児でリタイアすることになりますが、そのままでは医師がいなくなってしまいますので、復帰してもらうための条件整備を行わなければなりません。託児所の設置、勤務時間を特別なシフトにして短時間でも働いてもらう、そうした改善に取り組んでいます。
 県内には、栃木県内全域を対象とした「栃木県女性医師支援センター」のほか、自治医科大学附属病院には「自治医科大学女性医師支援センター」、獨協医科大学病院には「獨協医科大学病院女性医師支援センター」と2つのセンターがありますが、県医師会の男女共同参画委員会では、この3つのセンターや行政と連携を図りながら女性医師の支援を行っています。

■そのほかにも力を入れていることがありますか。

 県医師会で塩原温泉病院を運営しています。この病院は、回復期リハビリテーションの病院で、脳卒中などの後のリハビリテーションなどで県民に寄与しています。また、看護師対策では、准看護師学校と看護師専門学校に対して補助金を出して支援しています。

温泉を利用して脳卒中などの
回復期リハビリテーションを行う
災害医療のあり方見直し

 今回の東日本大震災を経験してクローズアップされたのが災害医療です。県医師会は県内病院の協力の下、南相馬市からの患者さんを受け入れたり、被災地へ医師派遣するなどしましたが、それらをさらに充実させ、県内で起こった時にも備えて救急医療体制を見直しています。
 これまでも災害医療のマニュアルはあったのですが、想定外の事態が起きたので、県医師会の救急委員会の中で災害対応の再構築を行っているところです。災害医療ということになると、当然、医療機関だけでなく、行政はもちろん、石油、運搬などライフラインを担っているほかの産業や部署との連携も必要です。全体のシステムを作り直す作業を今やっています。今回の災害は不幸な出来事でしたが、医療を見直す大きなきっかけになりました。
 救急医療に関しては、現在は各郡市での対応になっています。一つの行政区からほかの行政区に行く時には、ある程度連絡しておかないと行けないのです。これを郡市の医療圏を越えて、24時間システムが動くようにできないか、県医師会として行政に要望しています。司令塔になるところがあって、どこに行けばすぐに受け入れられるかが分かるシステムができればいいと思うのです。

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