栃木県知事 福田 富一 知事

自分の健康は自ら守る

本格的な高齢社会を迎え、一人ひとりの健康づくりが何よりも重要な課題になってきた。
年を取っても元気に過ごせれば、財政を圧迫している医療費の軽減にもつながる。
そのためにはどんなことが必要なのか。福田富一栃木県知事に県の取り組みなどを聞いた。

福田富一知事
■まずは、健康について、どのようにお考えですか。

 国民医療費は年々増大し、平成21年度は総額36兆67億円、1人当たり28万2400円となり、過去最高額を更新しました。1年で約1兆2千億円増え、
GDPの10%を超えました。
 その中で65歳以上の医療費が全体の55・4%を占めています。1人当たりでは65歳以上の人が68万7700円であるのに対して、65歳未満の人は16万3000円。おおよそ4倍の開きがあります。県民全体が健康で過ごすことはもちろんですが、65歳を過ぎてからの健康をどう保持していくかが、大きな課題になっています。

※グラフ類は平成21年度「県民健康・栄養調査」より

改善傾向も道半ば

 栃木県民の健康状態については、平成21年度に「県民健康・栄養調査」を実施し、食生活や運動習慣などの実態把握を行いました。
 平成15年度の調査に比べて、肥満者の割合は成人男性が28・6%から37・8%へ増えましたが、成人女性は28・4%から23・8%に減りました。
 食塩の摂取量については、男性が13・9グラムから12・4グラムへ1・5グラムほど、女性は12・0グラムが10・2グラムへと1・8グラム減りました。しかしそれでも、全国平均から比べるとまだまだ多い状況です。
 運動習慣のある人の割合は、男性が20・4%だったのが31・3%に増え、女性も21・5%から24・7%と増えました。しかし、1日当たりの歩行数は、男性7651歩が6881歩へ、女性も6593歩から5821歩へ減りました。
 たばこを吸う人の割合をみると、男性が47・7%から42・3%に、女性が11・7%から10・2%にと、いずれも減っています。80歳で20本の歯を保持している8020達成者については、男性が22・2%から28・1%に増え、女性も15・5%から20・9%に増え、喜ばしく思います。
 また、医師から高血圧と言われたことがある人の割合が、残念ながら男性が25・5%から27・9%へと高くなっているし、女性も23・6%から25・8%に高くなっています。

改善の傾向が強い高校生

 この時の調査の際には、高校生の食生活の実態調査も併せて行いました。健康状態については「とてもよい」「よい」「普通」と回答した男子、女子高校生が約9割を占めました。女子生徒の場合には、低体重の割合が前回に比べて増えているのに、「今のままでよい」「もっと痩せたい」と回答した人が9割にも上っています。「朝食を食べないことがある」と答えた人は減っていますが、まだ男子19・7%、女子16・2%います。
 「酒を飲んだことがあるか」については、「飲んだことがない」という生徒が男女ともに増え、たばこについても「吸ったことがある」との回答が減っていますので、ルールをしっかり守っている高校生が増えてきたということだろうと思います。

■健康づくりに関する計画の実施状況や今後の施策についてお聞かせください。

 県では平成22年度末、「新とちぎ元気プラン」を策定しました。この中で「健康増進計画(とちぎ健康21プラン)」を柱に、人材育成、相談体制、食育、健康増進のための普及啓発、健康づくりのための環境整備など、さまざまな施策や取り組みを展開しています。
 がん・生活習慣病の予防、医療連携体制の整備のほか、歯および口腔の健康づくりが重要性を帯びてきていますので、歯科保健の分野も含めた普及啓発から医療体制まで総合的な体制整備に着手しました。

身近な取り組みを推進
■具体的に展開されている施策はありますか。

 健康づくりは一人ひとりの意識の向上が大切です。それには身近な人同士、健康意識を向上させるよう働きかけ合うことが効果的なことから、平成20年度に「2万人で、1人100人健康づくり普及運動」を立ち上げました。2万人の一人ひとりが100人に働きかけますから、200万県民をカバーできるわけですね。
 この運動の中核的健康づくり推進ボランティアとして、現在約1万2400人規模の「メタボ阻止し隊」があります。
「運動し隊」、「禁煙隊」、「栄養・食生活隊」に分かれ、それぞれ、運動や禁煙、食生活の改善などの分野において活躍しています。禁煙の講習会や宇都宮市内を歩きながらメタボ阻止を呼びかけるウォーキング大会などもその活動例です。
 そのほか、銀行や保険会社の窓口で、がん検診受診率向上のための啓発パンフレットを配布し、受診勧奨を呼びかけ、製薬会社などの協力を得て研修会を実施するなど、企業との連携による取り組みも推進しています。これらが功を奏したのか、がん検診の受診率は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がんのいずれも向上しています。

口腔の健康に力を入れる

 また、平成23年の4月には「栃木県民の歯および口腔の健康づくり推進条例」が施行されました。歯を健康に保つことは、身体全体の健康を保つこと。県民の大きな健康課題である糖尿病、脳卒中などの生活習慣病の予防にも役立つという観点から、歯と口腔の健康に必要な施策を総合的、計画的に推進するための条例です。また、歯科保健基本計画も策定中です。今後、県民一人ひとりの自助努力を基礎に、関係機関と連携しながら、県民の歯と口腔の健康づくりに取り組んでいきたいと思います。

医療機関の機能分担と連携
■地域での健康増進には医療機関との連携が欠かせないと思います。医師会などと取り組んでいることはありますか。

 平成20年度から24年度を「栃木県保健医療計画」の第5期計画期間として、安全安心で質の高い医療を効率的に受けられる体制整備を進めています。
 医療体制の整備については、医療機関や医師会と連携しながら在宅医療、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病などの生活習慣病の医療における医療機関の機能分担と連携の推進を行っています。
 生活習慣病では、疾病ごとに機能別医療機関を選定して公表しています。例えば、がんなら、専門診療機関・標準的診療機関・療養支援機関、脳卒中であれば急性期の治療・回復期の治療・維持期の治療というようなことです。
 具体的には糖尿病では初期安定期治療が230医療機関、専門治療55医療機関、急性合併症治療5医療機関、慢性合併症治療138医療機関となっています。急性心筋梗塞も同様に定めています。どこの医療機関がその役割を担っているかを県のホームページなどで公表しています。
 自分はどこにいけば適切な医療が受けられるか、健康福祉センターなどに問い合わせをいただけば、何らかのアドバイスが受けられます。関心を持ってさえもらえば、自分がどう行動すべきかが分かるようになっています。

クリティカルパス進める

 栃木県医師会では、地域連携クリティカルパスの実現に向けて、全県的に取り組んでいただいています。治療内容や情報を医療機関や患者が共有して、切れ目のない医療に役立てようというものです。
 そのパスではどういう治療が行われたかが分かり、ダブった検査や診療が避けられます。効率的な診療ができ、本人にとってもリハビリなどがスムーズに受けられることになります。
 また、生活習慣病の適切な治療、重症化防止のためには、予防や医療に対する県民の理解と適切な受診行動が重要になりますので、一人ひとりに関心を持って対応してほしいということを呼びかけていきたいと思います。

福田富一知事
健康に関心を持って行動を
■健康づくりについて県民に特に訴えたいことはありますか。

 まず、自分の健康は自分自身で守っていかなければならないということです。無関心が病状を悪化させ、命を縮めてしまう場合もあります。
 そして健康を守るための行動を起こすことです。歩く習慣を身につける、スポーツをする、禁煙をする、食塩を控えバランスのよい食事を摂る、万が一具合が悪くなれば、すぐ〝かかりつけ医〟にかかることなどが必要だと思います。
 本県は1日当たりの塩分摂取量の目標値を、男性は10グラム未満、女性は8グラム未満においています。歩行数については男性の成人者は9200歩以上、女性は8300歩以上、65歳以上の高齢者の男性は5800歩以上、女性は4700歩以上が目標です。これを皆さん一人ひとりがクリアできるよう努力していただければと思います。
 特定健康診査(メタボ健診)の受診率は、目標値を7割に設定していますが、平成21年の実績は33・6%で、目標値のまだ半分にも至っていません。特定健康診査を受診し、栄養指導などを受けることも、すぐにできることではないでしょうか。
 がんをはじめとして生活習慣病の早期発見、糖尿病の重症化防止などのための各種の健診を定期的に行い、無関心に陥らないようにお願いしたいですね。県、市、町も各種の取り組みを実施していますし、今後も引き続き積極的に情報発信をしていきますから、活用してもらいたいと思います。

放射線からの安全対策も

 福島原発の事故による放射線の健康不安については、まず、専門家の方々から意見をお聞きする場を設けました。その方々に、県内で生活をしていく上での放射線の影響について、客観的な評価をお願いしています。
 対策が必要だということになれば、どういうことをやればいいのかをアドバイスをしてもらう。さらには、県民の皆様に、どういう情報を提供していけばいいか、栃木県に即した具体的な提言をしていただき、不安の解消に努めていきます。
 こうしたことを合わせて、生涯を通じて心身ともに健康で生活をすることができる社会を、県民の皆様と一緒に築いていきたいと思います。「新とちぎ元気プラン」の中では、「元気度日本一栃木県」の実現を目指していますが、県民の皆様が健康でいてこそ実現できるものです。引き続き市町や医療機関と連携しながら健康づくりに取り組みますので、県民の皆様にはさまざまな健診なども自ら進んで受けて、健康をしっかり保持してもらいますようお願いします。

今ある制度を使いこなす
■予防医学という面で予防接種なども重要ですね。

 県内の各市町では子宮けいがんワクチンの接種、妊婦健診の充実などに取り組み、県も応援しています。そういう制度はきちんと用意してあります。それを使うか使わないかは一人ひとりが判断をすることになりますが、ぜひともせっかくある制度を使いこなしてほしいですね。
 自らが情報収集して、自分の必要な健診を定期的に受診し、栄養士や保健師などの指導もきちんと受ける。日々お忙しいとは思いますが、そういうことをやっていくことが、病気の予防、疾病予防につながるわけです。勤めている人なら会社を休まなくてもすみますし、家族の皆様も心配しなくてすみます。
 それでもなお、どうしても医療機関にお世話にならなければならない時には、安心して医療が受けられるような仕組みを作っていかなければなりませんが、その前の段階で一人ひとりの努力が必要だと思うのです。

■ところで知事さんご自身は、健康づくりでどんなところに注意していますか。

 もう十二、三年になりますが、朝は必ず山芋のすり下ろしを食べています。朝起きると、お茶よりも何よりも先に口にするのはこの山芋のすり下ろし。そのあと、納豆やオクラなどの粘るものと一緒に食べ、さらに、豆乳などとともに朝食はしっかりと取ります。県庁に着いたら、九階の知事室までエレベーターを使わずに歩いて上がります。昼食は妻が作ってくれたおにぎり二個とヨーグルトなどです。夜はあまり食べないようにしています。健康法というなら、歩くことと、この〝山芋健康法〟ですね(笑)。

■ありがとうございました。

(平成23年11月末現在)


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