宇都宮市医師会 稲野 秀孝 会長

公的活動の担い手として

人口規模の割には公的病院が少ないとされる県都宇都宮。
その中で地域住民の健康の砦として医師会が果たす役割は大きい。
宇都宮市医師会の稲野秀孝会長は、医療は市民との信頼関係があってこそ成り立つことを強調する。

稲野秀孝会長
救急医療で地域に貢献
■宇都宮市医師会の概要と、どのような活動をしておられるかお聞かせください。

 当医師会の構成としては病院、診療所の医療機関が402施設、会員が603人となっています。現在の宇都宮市医師会館ができたのが昭和47年7月。その後、平成5年に宇都宮市医師会が運営する看護専門学校を医師会館の中に開校し、看護職員の養成を行ってきました。市民の健康維持・増進、地域医療の充実に貢献するのが医師会の使命と考えて活動しています。
救急医療に関しては、宇都宮市、宇都宮市医師会、市歯科医師会、市薬剤師会によって設立された宇都宮市医療保健事業団が管理する夜間休日救急診療所に医師会より当番医を派遣しています。ここでは内科・小児科の1次救急診療を行っていますが、応急診療を通した市民への医療サービスを提供するとともに、できるだけ病院勤務医の負担が減らせるよう努力しています。
また、平成20年9月、宇都宮市、保健所、宇都宮市医師会、消防、救急告示医療機関が集まり、宇都宮市救急医療対策連絡協議会が設立されました。2次救急医療体制を円滑に進めるためです。入院や手術が必要と考えられる2次救急医療は、地域医療の中核と言われており、協議会設立により順調に経過しています。救急医療はまさかの時に誰もが利用できるよう、普段の健康管理や通院治療をしっかり行っていただきたいと思います。

フォーラムは相互理解の場
■市民向けの公開講座も開いておられますね。

 市民の皆さんに健康意識を高めてもらうために、市民フォーラムを毎年開催しています。生活習慣病やがんなどのほか、新型インフルエンザ、ワクチンの話題、さらに平成23年12月には「放射能による食と健康への影響」をテーマにするなど、その時々のホットな話題を取り上げています。市民と私たち医師とがお互いによく理解し合う機会と考えており、市民が何を知りたいのかを調査しながら内容を吟味して実施しています。
栃木県はいくつかの健康指標となる数値が全国ランキングで低い傾向にあります。これらの改善のためには、塩分の制限、喫煙の防止、ワクチン接種の拡大など市民への啓蒙活動や、また、特定健診やがん検診の受診率向上が重要と考えます。これらの健診やワクチン接種については、宇都宮市の委託を受けている医師会員の医療機関でも受けることができます。

宇都宮市医師会館
■そのほかにも公的な活動に取り組んでいますね。

 大事な仕事として、市立の小中学校に学校医を選定して派遣しています。普段の健康診断や心臓検診、腎臓検診などを行っているほか、マラソン大会などがあれば、その前の健康チェックに出向いたりもします。
勤労者に対しては産業医の派遣を行っています。企業などから依頼があれば、医師会で産業医の認定を受けた医師を紹介しています。また、従業員が50人以下の企業は産業医を置く法的な義務はありませんが、取りまとめを行っている地域産業保健センターから依頼がきた場合には、それら事業所の産業医活動に協力しています。日本の企業の大多数は従業員50人以下の小さな事業所です。企業に比べて健康面でのケアが行き届かない面がありますので、できる限りの対応をしています。子どもや働く人たちの健康を守ることで社会貢献できればと思います。
看護職の養成に関しては、当医師会で准看護師から正看護師を養成する学校を運営しています。看護師のレベルアップは医療のレベルアップに直結します。これまで600人程の正看護師が本校から巣立ち、その9割以上は栃木県内に定着して、地域医療に貢献しています。ただ、准看護師の進学希望者が少なくなって、運営は大変厳しい状況です。

診療所と病院が役割分担を
■病診連携、在宅医療への取り組みはいかがでしょうか。

 高齢化社会の中でそうした方向性の重要性は十分認識しています。今後、在宅医療へと向かうとき、診療所は病院とは一味違う医療の提供ができると思うのです。診療所と病院がうまく役割分担をして連携していかなくてはなりません。日本には国民皆保険というすばらしい制度があり、病気になったら誰でも病院・診療所を受診できます。そこで開業医などかかりつけ医の果たす役割が大変重要となってまいります。つまり開業医がゲートキーパーとなり、必要に応じて高度な医療機関に紹介する仕組みを更に充実していくことが大切です。
往診や訪問診療といった通院困難な人たちに対する支えもできるだけ強化していくことが必要になるでしょう。超高齢化社会を迎えた今、医療費を無駄使いせず、みんなが満足できる医療をどう作っていくか、とても重要なテーマだと思います。

宇都宮市夜間休日救急診療所
■災害医療への対応はいかがですか。

 まだ発動はしていませんが、宇都宮市と協力して災害時の医療救護活動の実践マニュアルを作っております。東日本大震災を経験してみると、災害に対する備えと対策は今後の医師会活動の大きな柱になると思います。

自分の健康に関心を持って
■健康づくりに関して市民に特に訴えたいことがありますか。

 やはり自分の健康というものに関心を持って、健康づくりの努力や工夫をして欲しい。食生活の改善や運動習慣、更にはかかりつけ医を持つ、健診をきちんと受けて病気を予防するなど、多くの人たちに実践していただきたいと思います。市民の健康に関して公的な仕事を担うのが私たち医師会の責務だと思っています。会員が十分に技能を発揮できるよう体制を整え、行政や市民と協力しながら歩んでいきたいと思います。もともと医療は医師と市民と信頼関係があってこそ成り立つものです。今後も相互理解を深めるよう努めていきたいと思います。


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